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電話相談員インタビュー(臨床心理士編)

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最初は「自分の言葉が相手の命を左右するのでは」と怖かった。

それでも深く寄り添い続けたい理由。

電話相談員のゆうやさん(30代)は、臨床心理士の資格を持ち、療育を行う施設を中心に保護者や当事者への心理支援を行っています。#いのちSOS電話相談員としては2年の活動です。

─── 本日はどうぞよろしくお願いします。さっそくですが、ゆうやさんが「#いのちSOS」の電話相談員になろうと思われたきっかけについてお聞かせいただけますか?

はい。大学院生時代から自殺の問題に関心がありました。そんな中、指導教授からライフリンクの活動を紹介され、NHKの番組を見たり、先行研究を調べたりするうちに、セーフティネットとしての電話相談の重要性を感じていました。

一度は別の職に就いたのですが、転職の段階で偶然ライフリンクの募集を見つけ、「これは院生時代に見ていたところではないか」と感じ、自分が携わるご縁かもしれないと思い、応募しました。

電話相談員を目指した理由としては、先行研究で「死にたいと思っている人ほど、助けを求めるハードルが高い」という事実を知り、カウンセリングのように相談室で「待つ」だけでは手が届かないと感じていたことが大きいです。相談室の外に出て、広く支援を届ける電話相談の重要性を認識していたからです。また、ライフリンクでは有償の仕事として関われること、そしてスーパーバイザーからの継続的なアドバイスを受けながら経験を積める環境が魅力的でした。

─── 実際に電話相談員をされてみて、それ以前と感じたことや考えたことの変化はありましたか?

はい、大きく変わったと思います。実際に相談員として活動する中で、当初抱いていたのは、「助けたい」「自殺者を減らしたい」という思いでした。しかし実際に活動してみると「生きていればいい、死んだらダメ」という単純な問題ではないということを強く感じさせられました。

相談員の役割についても、当初は「自分の言葉一つで人の命を左右するかもしれない」という恐怖から、言葉が出ないこともありましたが、今は「何かをしてあげたり、何か言ってあげたりすることではない」と認識が変わってきました。むしろ、相手の言葉を理解し、聴くこと、そして言葉にならない感情を汲み取ることが大切だと感じています。相談は「ベストアンサーを出すこと」ではなく、「どうにもできない」と感じている相談者の気持ちを理解し、同じ目線に立つことだと考えるようになりました。

安易な解決法はむしろ邪魔になりますし、「正解がない」中で、自分なりの言葉で相談者と向き合うことが求められる仕事だと実感しています。相談者が電話をかけるまでに抱えてきた苦労や葛藤、試行錯誤を知り、理解することこそが、相談員にできることなのだと考えています。

 切実な声に寄り添いたい。そう意を決して、ライフリンクに入職しました。電話相談の経験はまったくなく「自分のひとことが、その人の運命を左右してしまうのではないか」と大きな不安を抱えての転職でした。しかし、今は落ち着いて自分を振り返ることができます。「自分ができることは、その人が自分の気持ちと向き合う時間に寄り添うというわずかなこと。相談者の思いを受け止め、相談者の力を信じ、向き合うことを全うしよう」と経験でわかったからです。先日も「死にたい」と繰り返していた人が対話を続けるうちに「本当は生きたいんです」と自分の気持ちを見つめ、終話しました。

─── 電話相談員の経験は、ゆうやさんご自身のキャリアや専門性にどのように影響を与えていると感じますか?

電話相談は、相手の顔が見えず、毎回初対面かつ、短い時間で「生きるか死ぬか」という深い対話を行う必要があるため、非常に高度なスキルが要求される特殊な仕事だと感じています。しかし、この経験が心理士として他の現場でも活かされていると強く感じます。

特に、言葉だけでは伝わらない息遣いや雰囲気、言外の感情を「キャッチする感覚」が少しずつ磨かれ、これが心理士としての現場にも役立っています。短い時間で表面的な部分だけでなく、信頼関係を築くために自分の内側にある「相手への思い」を、まっすぐに伝えられるようになったとも感じています。

また、オンラインや電話での相談の需要が今後さらに増えることを見据え、将来的なキャリアとして非常に貴重な経験を積ませていただいていると思います。特に私の出身地域のような地方の小さな町では、心理支援が行き届きにくく、オンラインや電話での相談が「最も良いとはいえなくても、必要な方法として広がっていく」と考えています。このようなセーフティネットの発想から、一般的な心理職のキャリアとは異なるかもしれませんが、将来を見据えた先験的な経験を得るために、この特殊なキャリアパスを選びました。

─── ライフリンクの働きやすさについてはいかがでしょうか?

ライフリンクでの勤務環境は非常に働きやすいです。特に、オンラインで働ける環境は、他の仕事との両立においても大変助かっている点です。

研修体制も充実しており、動画資料や研修資料が非常に細かく、研修も丁寧だと感じています。現場に出る前の評価項目が細かく設定されているだけでなく、困ったことに対してはスーパーバイザーの方々が時間をかけて丁寧に振り返りやアドバイスをしてくださるため、大変ありがたいです。

心理士の業界では、研修やスーパービジョンには費用がかかる場合も散見される一方で、ライフリンクでは仕事の一貫として細やかなフィードバックを受け、研修も受けられることは非常に貴重な経験だと述べています。また、危ない時や危機的な状況の時には、すぐにスーパーバイザーに助けを求められる体制が整っているため、安心して仕事に取り組めると感じています。心理職には一人職場が多い中で、同じ職場の仲間と交流し、意見を共有できる環境は非常に珍しく、ありがたいです。


─── 生成 AIの進化が進む現代において、電話相談員という人間の仕事はどのような位置づけにあるとお考えですか?

生成AIの進化は、私自身も興味深く見ているテーマです。生成AIは、悩みを整理し、客観的なアドバイスを提供することに長けており、「自我がなく悪意にさらされることがない」という点で強みがあると認識しています。

しかし、人間の電話相談員には生成AIにはない唯一無二の強みがあると考えています。それは、生成AIがどんなに進化しても、人間は「自分以外の他者」として存在することであり、「人間に受け止めてもらえた、理解してもらえた」と感じる時に心に生まれる安心感や温かさは、生成AIには届かない領域だと言えます。

生成AIにはない「人間的な感覚」をさらに磨いていくことが、生成AI時代において電話相談員として求められるスキルだと感じています。

将来的には、生成AIと人間が共存する社会を期待しています。生成AIが相談のハードルを下げる入り口となり、そこからさらに深い支援が必要な場合に、人間の相談員へと繋がるセーフティネットの一環となることを望んでいます。

私は、「人に受け入れてもらいたい」という思いは人間にとってある種本能的なものなのではないかと信じています。そこに応えられることが人間の相談員としての唯一の役割だと考えています。たとえ「人間と関わると傷つく」と感じている人や、「生成AIで十分」と感じる世代が増えたとしても、「それでも人間と繋がることの温かさや安心感」を提供できることが私たちの強みであると信じたいです。

─── 最後に電話相談員としての抱負をお願いします。

人に期待したり、希望を持ったりするような、人との付き合いでしか得られない楽しさを、おそらく多くの人が諦めてしまっていると思います。現実の人間関係で傷ついた経験から、「もう人に期待しても無駄だ」と心を閉ざしてしまう気持ちはよくわかります。でも最後の最後にちょっと期待してかけてくる相談者の、もしかしたら1回しかないかもしれない電話にかけてくれたというめぐり合わせを、大切に向き合っていきたいと思っています。

─── ゆうやさんの言葉一つひとつから、一人ひとりの声に真摯に向き合い、その一度きりの「つながり」の機会を大切にしたいという、#いのちSOS電話相談員としての強い思いが込められているのを感じました。本日はどうもありがとうございました。